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広島地方裁判所 昭和32年(行モ)4号 決定

岡山市上伊福本町六番地の十一

申立人

竹内常七

右代理人辨護士

光延豊

広島市霞町

被申立人

広島国税局

右指定代理人

大蔵事務官

畠山渉

右同

松浦東

右当事者間の昭和三十二年行(行モ)第四号行政処分執行停止事件につき当裁判所は申立人の申請を理由ありと認め、次のとおり決定する。

主文

昭和三十二年(行)第一三号行政処分取消事件の本案判決確定に至るまで被申立人が申立外興和産経株式会社に対して滞納税金の徴収として別紙目録記載の物件につきなした滞納処分の執行はこれを停止する。

(裁判長裁判官 大賀遼作 裁判官 小池二八 裁判官 下郡山信夫)

物件目録

一、金庫(五号)  一個

二、手提金庫    二個

三、火鉢      一個

四、椅子      四脚

五、筆額      一本

六、扇風機     一台

七、油絵      一枚

八、事務机(両袖) 二脚

九、事務机(片袖) 三脚

十、柱時計     一個

十一、廻転椅子   三脚

十二、ガスコンロ  一個

十三、ガスストーブ 一個

十四、応接セット  一組

十五、自転車    一台

十六、座布団    五枚

十七、電蓄     一台

(参考)

行政処分手続停止命令申請書

申請の趣旨

被申請人より申請外興和産経株式会社に対する別紙目録記載の物件に対する滞納税金徴収の為の手続は原告竹内常七被告広島国税局間の広島地方裁判所昭和三十二年(ワ)第号差押物に対する行政処分取消請求事件の判決ある迄停止すべき旨の御命令相成度

申請の原因

被申請人は申請外興和産経株式会社に対する滞納税金徴収の為、昭和三十一年十月二十四日及び昭和三十二年二月十五日申請人の住所に臨み別紙目録物件に対し差押処分をした然るに右差押物件は買主並賃貸人古本イカ売主並賃借人興和産経株式会社間の動産売買並賃貸借契約につき、岡山地方法務局所属公証人車田輝平が昭和三十年一月二十七日作成した第一万六千六百二十六号公正証書記載の通り、申請外古本イカが昭和二十九年十二月六日興和産経株式会社から差押外の物件と共に代金三十万円也を以て買受けその引渡を受けた後、更に同日買主から売主会社に賃料一カ月金五千円也にて賃貸しその引渡を完了した、その後昭和三十一年六月八日申請人が買主並に賃貸人たる前記古本イカから代金三十二万円也を以て買受けてその所有権を取得し且つ該物件の引渡を受けたもので該物件は興和産経株式会社の所有に属するものではない従つて被申請人の右差押処分は不当であるから申請人は被申請人に対し審査の請求を為して居りました処、昭和三十二年六月二十一日審査請求は棄却されました。依つて本日申請人は御庁に右行政処分取消(滞納税金徴収の為の差押の解除)を求める為第三者異議の訴を提起致しましたが、此の儘放置するときは本月十九日滞納処分の為目的物件は競売に附せられますそうすると後日申請人は勝訴の判決を受けても其の目的を達せられませんので申請の趣旨の通り何卒停止の御命令を相賜度

疎明方法

疎甲第一号証ノ一 譲渡証書の字

〃 ノ二 古本イカの附記事項を以て本件差押物件が申請人の所有なること

疎甲第二号証 差押調書謄本写を以て被申請人が申請外興和産経(株)の滞納処分として差押を為したる事実

疎甲第三号証 審査決定通知書写を以て申請人の審査請求が棄却されたる事実

疎甲第四号証 公売通知書写を以て滞納税金徴収の為の公売手続が本月十九日なる事を各疎明します

昭和三十二年七月五日

右申請人 竹内常七

右代理人弁護士 光延豊

広島地方裁判所御中

意見書

申請人 竹内常七

被申請人 広島国税局長

右当事者間の御庁昭和三十二年(行モ)第四号申立事件について被申請人は次のように意見を述べる

一、本件申立は却下さるべきである。

申請人は被申請人が昭和三十一年十月二十四日及び昭和三十二年二月十五日申請外興和産経株式会社(以下申請外会社という)の滞納税金徴収の為末記物件を差押処分したが同物件は申請外会社の所有ではなく申請人の所有であるから差押は不当であると主張されるが同物件は次の理由により申請外会社所有物件であり被申請人の差押処分は適法且つ有効である

二、申請人は同物件について疎甲第一号証の一公正証書(第一六六二六号昭和三十一年一月二十七日公証人車田輝平作成)の末尾附記記載をもつて昭和三十一年六月八日申請外古本イカ(以下古本という)より代金三十二万円で買受けたと称し所有権を主張されるが被申請人の調査によれば古本及びその代理人竹内英夫は右公正証書の末尾附記記載事項は全く関与していない、又申請外会社と古本との間に譲渡担保契約があつたとしても申請外会社の債権者古本に対する債務一、金三十二万円は昭和三十一年四月十三日までには弁済されて居り同物件の所有権は申請外会社に復帰したから古本及びその代理人竹内英夫が申請人に同物件を譲渡する何等の権限もない

又前記附記事項は申請外会社に同物件が復帰後に記載されたものである事が推定される

三、申請人は申請外会社より差押前譲渡を受けたと疎甲第一号の一譲渡証書をもつて主張されるかも知れないが同譲渡証書の証載事項は次の理由によりその主張は採用に値しない

(1) 実体的には申請人は申請外会社の債務引受をなし申請外会社の債権者古本及びその代理人竹内英夫に昭和三十一年六月八日一、金三十万円を弁済して同物件の引渡を受けた旨主張されるが昭和三十一年六月八日古本及びその代理人竹内英夫は該三十万円の弁済をうけた事実のない事は前記の通りにして昭和三十一年四月十三日までに弁済されて居るものでその主張は不実であるのみならず申請人が昭和三十二年二月二十八日及び申請外会社が昭和三十一年十一月二日提出した審査請求の理由に右譲渡証書の事実について主張がなく又、該請求にかかる調査にあたつてもかかる証書の提示並びに主張は全くなかつたものである

(2) 形式的には同証書は確定日付のない私証書であつて昭和三十一年六月八日付となされてはいるが申請外会社の代表取締役印は同会社に又申請外竹内英夫の印は申請人のところにあるから何時何人が該譲渡証書を作成したか疑うに充分であつて真正に成立したとは認め難いものである

四、なお申請人の主張である疎甲第一の一、疎甲第一の二については被申請人が前記のように主張したとおり申請人の主張は矛盾も甚だしいもので到底信用しがたく本件差押中の物件は当然申請外会社に属するものである

五、又昭和三十一年十月二十四日差押中の本件物件中左記のものは申請人より国税徴収法第三十一条ノ三による審査の請求なく従つて本訴(取消請求)は不適法である

柱時計 一 扇風機 一 手提金庫 二

事務机 一 筆額 一 油絵 一

椅子 一 火鉢 一 金庫 一

六、以上の如く本物件は申請外会社に帰属した所有物である事は明白で被申請人の差押処分は適法且つ有効であるのみならず本物件の公売は単なる会社の什器備品に過ぎず行政事件訴訟特例法第十条二項にある処分の執行を停止すべき場合に該当しないものであるから速かに却下の御裁可を仰ぎ度い(神戸地(行モ)二、三〇、五、七、言渡、東京地(行モ)一、三〇、一二、二六言渡決定御参照)

右指定代理人 畠山渉

松浦東

物件の表示

一、金庫(五号)  一

二、手提金庫    二

三、火鉢      一

四、椅子      四

五、筆額      一

六、扇風機     一

七、油絵      一

八、事務机(両袖) 二

九、事務机(片袖) 三

十、柱時計     一

十一、廻転椅子   三

十二、ガスコンロ  一

十三、ガスストーブ 一

十四、応接セット  一

十五、自転車    一

十六、座布団    五

十七、電蓄     一

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